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オリンピック開幕の3日前、ボクは予定していたアテネの地ではなく、東京地方検察庁の地に立っていた。

「セグウェイによる公道走行で、押収された物品がなぜ一年も戻ってこないのか?」の質問に対し、裁判所、検察庁、警視庁のどこの部署からも説明がないので、罰金の支払いを拒否していると最終勧告で召集がなされた。

本当の出頭日は7/29(木)であったが、母親の「御通夜」であり、私的な都合で延期してもらえた。翌週に出頭しようとしたが、検察庁の徴収担当がお盆休みということで8/10(火)に延期された。担当者の休みによって、いとも簡単に出頭日が左右されるシステムはいかがなものだろうか? 出頭ということは、そんなに大したことではないんだなという印象を抱かざるをえない。

●説明がないから、納得できないから、払わないから……

東京地方検察庁の前で、他の職員とは違う、テンガロンハットにピンク色のシャツ男は最初から警備にマークされた。持っているビデオとカメラの撮影を注意されるが、その装備をしたまま入庁する。テープが回っているかどうかのチェックは特にしないようだ。警備の人たちは何のためにいるんだろう?

「略式命令」というたった三枚の文書でしか、判決結果が知ることができないのを不服に思い、アポイントを入れた記録課へ向かう。しかし、記録課では、「この書類しかない」との一点ばり。なぜ、裁判官が判断した「起訴書類」や、検察庁が判断した「総研書類」を見せてくれないのだろうか? 罪を犯しているのならば、その罪をキチンと説明する義務が彼等にはあるはずだ。

「略式起訴」というのが、そういう説明がないものならば完全に検察官の説明不足である。「簡単に裁判が終わる」というのと、「裁判の内容が説明されない」というのでは意味がまったく違う。

日本の犯罪が減らない理由のひとつに、犯罪者に対し、罪を犯したことをキチンと説明していないからであろうと思う。識者によると「交通違反程度に時間をさいてられないくらいに裁判所は忙しい」というが、検察庁の一般職員の作業風景は、一般企業と比較すると、非常におっとりしている印象を受けた。

また裁判するのに弁護士が読み込みに一か月も要するというのは、スローライフ時代を先取りしているとしか思えない。オウム事件の松本被告も死刑を求刑されていても、上告しているので、被告人として東京拘置所でボクと同じ釜のメシを食べることになるのだろうか?

「セグウェイに乗った人とオウム事件が同じ釜のメシでいいのか?」もタイトルとしては悪くはない。

せっかくなので検察庁の記録をコピーをもらい、一枚60円で180円を請求される。そして、金銭が扱えないので、印紙を買ってこいという。あとで印紙で貼ればいいのにエレベーターを使って買いにいかされた。印紙売り場はまたのんびりしていて、さんざん待たされる。領収書をお願いすると印鑑を見失ったらしく発行できないという。絶句……、先が思いやられた。

記録課で答えがもらえなかったので、約束の13時に徴収担当の窓口に出頭する。
十分に先週休みをとった担当者が登場した。まず、ボクが「なぜ罰金を払わないのか?」からの質問となった。「納得がいかないから」と答えると、「裁判とはそんなもの」の相容れない内容で、延々と徴収担当者とキャッチボールをくりかえす。

「いつになったら払えるのか?」「日時の問題でなく納得のいく説明があれば今すぐに払う」と現金50万円を見せる。現金があるのを知ると、いろいろとあの手この手で、払わせようとする。

「払わないと大変なことになりますよ…」と脅しまでが登場してきた。そして最後には「払ってもらわないと私が仕事したことにならない」となんと泣きまで入りだす。その言葉は役所では通じても、ベンチャー企業経営者にはまったく通用しない。

「最後に、払わないという処分でいいですね?」と確認され、「一日5000円として100日間の労役となります」といわれる。ここで徹底的に3か月も戦うゆとりがなかったので、一週間だけ戦うことにした。「93日分は納得したので、一週間、拘置所に行きます」と伝えた。担当者にしては満額徴収しないと終わらない仕事のようだったが、実際にはこのような支払い方も出来てしまった。

「16:30にこちらから葛飾区の小菅(こすげ)の東京拘置所へバスがいくのでそれまでこちらの部屋で待機してください」と最終宣告された。その瞬間からボクはスズキやブリと一緒で、一般人→被告人→納付義務者→受刑者と出世したようだ。

それから93日分の罰金を納め終わると、自由が拘束された。別室に通され、トイレも自販機も、バスが来るまでは徴収担当につきそってもらわないといけない。おもしろくなってきたゾ!(この職業はこんな時こそウキウキしてくるから不思議だ)。その間もソーシャルネットワークサイトやblogには携帯で画像をアップし続ける。

●シャバの最後の夕焼け……

バスの用意ができたらしく、いよいよ出頭となった。担当者が護送官をつれてくる。なぜか「口のききかたを注意してくださいね」とニヤリと笑ったように見えた。護送官が僕の手を差し出させ、右手から手錠をかけはじめる。最近の手錠は、これ以上に締め付けないようにロックできる機能がついていた。実は、ボクは手錠をかけられるのはこれで二度目になる。

一度目はアメリカのフリーウェーであまりにも運転がへたくそでジャンキーと勘違いされてサンフランシスコで留置された時だ。あの時は二人の警察のうち、一人はボクの手に手錠をかけ、もう一人は後ろで銃をかまえボクの頭を狙っていたので、本当におしっこをちびりそうになった。しかし、尿検査で薬物反応がなかったのですぐに釈放された。もし、おしっこをちびっていたら尿検査が危なかったかもしれない。その時も30分くらい本物の犯罪者たちと同室で取り調べだったので、度胸はそのときについている。

今回はそれから比べると落ち着いてられるものだが、初めての拘置所行きなので、ドキドキすることには間違いない。

そもそも、刑務所や拘置所を「行刑施設」といい、刑務所は受刑者を収容し処遇を行う施設であり、「拘置所」は主として刑事裁判が確定していない未決拘禁者を収容する施設だそうだ。留置場とは、被疑者を48時間留置し拘留請求があった場合に身柄を拘束するための施設だ。

罰金を払わないので受刑者となるが、労役が目的なので「東京拘置所」に行くこととなったようだ。そのあたりの説明も詳しくなされないので、さらに納得がいかない。しかし、これからさらに納得がいかないことが続く……。

愛機のGMTマスターIIの替わりに、ヒンヤリとした銀色に輝く手錠を腕に巻いて、検察庁の裏階段を降りると、灰色のバンがとまっていた。「三列目の最後部の真ん中にすわりなさい」といわれ、バンの中にはいると後部の奥にはアクシブドットコムの宇佐美社長の人相を悪くしたようなヒゲの男がいた。ヒゲの宇佐美さんは、凶悪犯人に見えた。

瞳はまだ若そうであったが、黒のスーツに白い開襟シャツはどうみてもその道の人だ。そしてボクの横に護送官、そしてその前にまた護送官、その隣に笠智衆を若くしたおじさんが乗り込む。最前列には女性刑事、そして男性刑事が運
転手だ。ルームミラーにうつる「ゴルゴ13」のような刑事の目が映画に出てくるゴルゴよりも怖い。

この三人の受刑者を乗せて、夕暮れの地方検察庁から首都高速に乗り、拘置所へ向かう。夕焼けがキラキラしていて、「シャバの最後の夕焼け」を黙ってみていると何かこみあげてくるものがあった。

渋滞で一時間近くかかって……といってもこの時点から時計がないのと、沈黙を要求されているので、非常にたいくつで長く感じた。一時間黙っているというのはボクには最も苦行のひとつでもある(笑)。

日が落ちてから、高速を降りると、すぐに東京拘置所に到着したようだ。ゲートがゆっくりと開く。子供やおばさんがいる。たぶんこの拘置所勤務の人の社宅があるようだ。しばらく進むと今度は5メートル近い塀が見えてきた。いよいよこれが拘置所だ。長い塀が続き、途中にシャッターがあった。車がその前で止まり、しばらくすると、さきほどゲートをあけた係官が走ってきて、腰のキーを差込みシャッターを上げる。ガラガラとシャッターが重い音を上げる。

埼玉の拘置所から最近、逃げ出した人がいたが、よくやったと思う。東京拘置所では絶対に無理だろう。映画の「ジュラシックパーク」のゲートに入るような厳重な警戒態勢である。その後、我々のライドしているジープは、ゆるやかに建物のカーブに沿って降りてゆくと感じたほど。雰囲気は似ている。

無機質な堀の高い建物はまるで要塞のような構造になっていた。B1FかB2Fまで降りた気がする。すると、またシャッターがあった。それは最後のシャッターであった。そのシャッターが開くと、中からまるで仮面ライダーのショッカーか007のスペクターの戦闘員のように刑務官がぞくぞくと湧いて出てきた。彼らが護送のバンを取り囲むと、ヒゲ宇佐美、ボク、笠智衆の手錠の三人は、表におろされ、名前を呼ばれてそこで手錠をはずされる。

拘置所の中に入れられると、薄暗い廊下を抜け、すると、これでもかというほど蛍光灯で白く輝くホールに通された。まぶしいくらいに何もかも白い。あちらこちらに白線がひかれている。その白線に進めといわれ、ヒゲ宇佐美の後にボクは続いた……。ボクは「時計じかけのオレンジ」のマルコムのような気分でその白線の前で急停止した。

……つづく